コフキコガネの名前の由来は、全身に生えた毛がまるで粉を吹いたように見える様からきている。また学名のMelolonta は「果実畑の昆虫」の意味で、コフキコガネ属の属名である。地方によってはオジンブイブイなどと呼ばれる。
夏、路上に落ちている虫というのがある。死んでいる訳ではなく、ひっくり返って起き上がれない昆虫である。この手の甲虫は近くに雑木林がある場合はカナブンが多い。そうでなければ十中八、九は本種コフキコガネである。
子供の頃、最も頻繁に目にしていたコガネムシはドウガネブイブイやコガネムシといった普通のコガネムシだったかもしれないが、最も印象的だったのはコフキコガネだったかもしれない。初夏になると人家の灯りによって来る。夜中、窓にゴツゴツとぶつかる昆虫の音を聞きつけ、もしやと思い戸を開けてコフキコガネだったりするとガッカリしたものである。体長20mm~25mmのコガネムシに比べると、25mm~30mmと一回り大きく、見栄えする。捕まえてよく見ると、触角の先が櫛型にいくつも分かれているのがわかる。
大きさも一回り大きく見栄えする甲虫なはずだが、幼少の頃になぜ他のコガネムシと比べても扱いが悪かったのかと考えると、次の原因が考えられる。一つは、他のコガネムシやカナブンにある金属質の光沢がコフキコガネには無く、今でこそ全体の短毛がビロードのように美しく、この昆虫の持つ渋い魅力がわかるが、子供にはわかり易い金属光沢の方に興味が向くのであろう。そしてもう一つはこの昆虫のプロポーションにある。他の甲虫(カナブン等)に比べ体高があり、その体の大きさに比べて手足が短い。その微妙なプロポーションの悪さが子供心に気持ちが良くないのであろう。
樹液などが主食のカナブンと違い、コナラやクヌギなどの葉が主食
ドイツではドイツ語の5月(Mai)のMaikäfer マイケーファーと呼ばれ、春を呼ぶ昆虫としてテントウムシ同様に幸運のシンボルとしてドイツの人々に愛されており、この時期には様々なグッズやコフキコガネ型のチョコレートなどが販売される。
しかし、コフキコガネにはドイツでもう一つのの顔がある。ドイツの童謡に「飛べ、コフキコガネ」と言う物があり、どうやら旧ナチスの軍国主義の象徴的な昆虫でもあるようだ。
当作品では、脚や胴など各関節と触角が可動する、問題であったコフキコガネの特徴とも言える粉を吹いたような体毛は、数々のテストの結果、荒した銅の煮色の上から砥の粉を混ぜたトップコートで表現した。